■ 尊敬語・謙譲語の使い分け
尊敬語・謙譲語は、次のように使い分ける。
① 目上の人や話し相手の動作……尊敬語を使うことはできるが、謙譲語を使うことはできない。
(例) 先生がこちらに参ります。(誤)
→ 先生がこちらにいらっしゃいます。(正)
② 自分側(自分や身内)の動作……謙譲語を使うことはできるが、尊敬語を使うことはできない。身内どうしの会話では敬語を使う。
(例) うちの鈴木がおっしゃったとおりです。(誤)
→ うちの鈴木が申し上げたとおりです。(正)
■ 接頭語「お・ご」の使い方
接頭語の「お」は和語に、「ご」は漢語に付く。
(例) お勤め お望み お出かけ お忙しい
(例) ご勤務 ご希望 ご出発 ご多忙
■ 過剰な敬語
敬語は、使いすぎないように注意する。
① 二重敬語……一つの語に同じ種類の敬語を重ねて使うこと。一般に不適切な使い方とされる。
(例) あなたのおっしゃられるとおりです。(誤)
② 敬語が続く場合……最後の敬語を残して前をできるだけ省く。
(例) テレビをご覧になりながらお食事なさっていらしゃいます。
→テレビを見ながら食事していらっしゃいます。
③ 人間以外のもの……敬語を使わない。
(例) そちらは、雪が降っていらっしゃいますね。(誤)
→そちらは、雪が降っていますね。
④ 「お・ご」の付けすぎ……慣習となっているものだけに使う。
(例) お鳥 おコーヒー お悲しい (誤)
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ここでは、敬語を使うときに注意すべきいくつかの事柄を見ていきます。
敬語の使い方のまちがえやすい部分を知っておくと、正しく使うために役立ちます。
尊敬語は人の動作を高める言葉であるのに対して、謙譲語は人の動作をへりくだる(低める)言葉です。
この基本的なちがいから、次のようなことが言えます。
(1) 目上の人や話し相手の動作
目上の人や話の聞き手(読み手)の動作に対しては、尊敬語を使うことはできますが、謙譲語を使うことはできません。
よくあるまちがいは、謙譲語を尊敬語ととりちがえて、目上の人などに対して謙譲語を使ってしまうことです。
先生がこちらに 参り ます。(誤)
→ 先生がこちらに いらっしゃい ます。(正)
あちらで 伺ってください 。(誤)
→ あちらで お尋ねください 。(正)
ご注文は、何に いたします か。(誤)
→ ご注文は、何に なさい ますか。(正)
田中先生は、学校を お休みし ました。(誤)
→ 田中先生は、学校を お休みになり ました。(正)
このようなまちがいをしないためには、尊敬語と謙譲語のそれぞれの表現のしかたをしっかりと覚えることが大事です。
(2) 自分側の動作
自分や自分の側の人(身内)の動作については、謙譲語を使うことができますが、尊敬語を使うことはできません。
身内には、家族のほかに、会社など同じ集団にいる人がふくまれます。
自分の身内について尊敬語を使ってしまうと間違いになります。身内の動作については謙譲語を使うように注意しましょう。
父が先生に お会いになり たいと申しています。(誤)
→ 父が先生に お目にかかり たいと申しています。(正)
うちの鈴木が おっしゃっ たとおりです。(誤)
→ うちの鈴木が 申し上げ たとおりです。(正)
自分や身内がする動作であっても、謙譲語を使うことができない場合があります。
たとえば、「伺う」は動作の向かう先に対して敬意を表す言葉(謙譲語Ⅰ)なので、身内どうしの間の動作に使うことができません。
・私は、祖母のところへ 伺い ます。
上の例文では、話し手(私)が身内である「祖母」に対して敬意を表すことになるので不適切な表現になります。
一方、「参る」のように、もっぱら話の聞き手に対して敬意を表す謙譲語(謙譲語Ⅱまたは丁重語)であれば、身内どうしの間の動作に使っても問題ありません。
・私は、祖母のところへ 参り ます。
自分側以外には尊敬語、自分側には謙譲語を使う。
*
身内どうしの会話であって身内以外の人間がかかわらない場合には、身内どうしであっても敬語(尊敬語や謙譲語)を使います。
たとえば、同じ会社のなかの人間どうしで目上の人のことを話すときは、その人に対しては敬語を使うのが適切です。
しかし、会社の外の人間と話すときには、目上の人は身内になるので、その人に対して敬語を使うことは逆に不適切になります。
尊敬語の「くださる(くれる)」と謙譲語の「いただく(もらう)」とは、基本的に同じ内容を表しているので、どちらを使ってもかまいません。
もっとも、「くださる」は相手が自分に(して)くれる、「いただく」は自分が相手から(して)もらうという違いがあります。
したがって、主語をまちがえないように助詞の使い方に注意する必要があります。
・先生が 私に プレゼントを くださる 。
・私が 先生から プレゼントを いただく 。
・先生が 私を 励まして くださる 。
・私が 先生に 励まして いただく 。
ふつうの語に接頭語の「お」や「ご」を付けると、敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)にすることができます。
(接頭語については、「複合語・派生語」のページを参照してください。)
その場合、「お」は和語に付き、「ご」は漢語に付くのが原則です。
お勤め お望み お出かけ お忙しい
ご勤務 ご希望 ご出発 ご多忙
和語とは日本固有の言葉で訓読みをする語をいい、漢語とは中国語に由来する言葉で音読みをする熟語をいいます。
敬語の接頭語「お」は和語に、「ご」は漢語に付く。
例外として、漢語に「お」が付くもの(下の【A】)や和語に「ご」が付くもの(下の【B】)、「お」と「ご」の両方が付くもの(下の【C】)もあります。
【A】お弁当 お散歩 お化粧 お行儀
【B】ごゆっくり ごもっとも ごひいき
【C】お返事・ご返事 お勉強・ご勉強
以上のことは、「お(ご)~になる」「お(ご)~する」などのような敬語の形をつくる場合であっても同じです。
お入りになる ご入場になる
お導きくださる ご指導くださる
お尋ねする ご質問する
お祈り申し上げる ご祈念申し上げる
*
接頭語「お」「ご」が付く語は、それが尊敬語・謙譲語・丁寧語のいずれであるかを見分ける必要があります。
目上の人や話の聞き手(読み手)の動作などを表すものであれば尊敬語であり、自分や身内から身内以外の人に向かう動作などを表すものであれば謙譲語です。
また、とくに誰かへの敬意を表すものではなくて言葉を上品にするためである場合には丁寧語になります。
先生からの お手紙 を読む。(尊敬語)
先生への お手紙 を書く。(謙譲語)
自分が食べる お弁当 をつくる。(丁寧語)
上の例の「お手紙」が同じ形の語であることに注意してください。
このように、同じ形の語が尊敬語にも謙譲語にもなることがあります。
たとえ敬語であっても、度をこえて使ってしまうと、聞き手(読み手)に対してけっしてよい印象をあたえません。
敬語は、あまり使いすぎることがないように注意する必要があります。
行きすぎた敬語表現の例をいくつか紹介しましょう。
(1) 二重敬語
次の例を見てください。
あなたの おっしゃられる とおりです。
先生が本を お読みになられる 。
上の最初の例の「おっしゃられる」は、「言う」を尊敬語の動詞である「おっしゃる」に言いかえて、さらに尊敬の助動詞「れる」を付け加えたものです。
また、次の例の「お読みになられる」は、「読む」を「お読みになる」という尊敬語の形にして、さらに尊敬の助動詞「れる」を付け加えたものです。
このように、一つの語に対して同じ種類の敬語を重ねて使うことを二重敬語といいます。
二重敬語は、一般に行きすぎた敬語表現であるとして不適切とされています。
もっとも、次の例のように、二重敬語であっても慣習として使われているものもあります。
先生がお茶を お召し上がりになる 。
どうぞごゆっくり お召し上がりください 。
私がそちらへ お伺いします(お伺いいたします) 。
「ご尊父」「ご高配」「ご賢察」「ご令嬢」のように、尊敬を表す接頭語を重ねて付ける場合もあります。
これらも二重敬語ですが、慣習として定着しているので、まちがいではありません。
二重敬語とまぎらわしいものに、次のような表現があります。
・ご覧になっていらっしゃる。(見ている)
・ご覧になってくださる。(見てくれる)
・ご覧になっていただく。(見てもらう)
・お目にかけてさしあげる。(見せてやる)
これらの表現は、二つの語をそれぞれ別々に敬語に言いかえているので、二重敬語にはあたりません。
たとえば、「ご覧になっていらっしゃる」という表現は、「見ている」の「見る」を尊敬語の「ご覧になる」にし、「いる」を尊敬語の「いらっしゃる」にしたものです。
この場合、「見る」と「いる」という別個の語をそれぞれ敬語に言いかえています。したがって、二重敬語ではありません。
(2) 敬語が続く場合
一つの文のなかに敬語がいくつも続くと、くどい表現になってしまいます。
そこで、次の例のように最後の敬語だけを残してそれよりも前の敬語をできるだけ省くと、すっきりとした文になります。
先生は、テレビをご覧になりながらお食事なさっていらしゃいます。
→先生は、テレビを見ながら食事していらっしゃいます。
ご質問のあります方はいらっしゃいますか。
→ご質問のある方はいらっしゃいますか。
上の例のように最後の敬語表現だけを残すのは、その敬意が前の部分にも及ぶことになるからです。
(3) 人間以外のもの
敬語は、人間に対して使うものです。
したがって、次の例のように、自然や動物など人間以外のものに敬語を使うと間違いになります。
そちらは、雪が降って いらっしゃい ますね。
→そちらは、雪が降っていますね。
お宅の犬は、何歳に なられ ましたか。
→お宅の犬は、何歳になりましたか。
上の例で、「雪」や「犬」は人間ではないので、これらのものに対して敬語を使う必要はありません。
したがって、「いらっしゃる」や「なられる」といった敬語表現ではなく、「いる」や「なる」といったふつうの表現にします。
「やる・与える」の謙譲語に「あげる」があります。
この「あげる」という語は、次の例のように使われることがよくあります。
・犬にエサを あげる 。
・子どもにおこづかいを あげる 。
敬語は人間に対して使う言葉ですから、「犬」という人間以外の動物に対して「あげる」という尊敬語を使うことは本来はまちがいです。
また、「子ども」は敬意を表す対象ではないので、謙譲語の表現を使うことは本来適切ではありません。
(4) 「お」「ご」の付けすぎ
言葉を上品にするために接頭語の「お」「ご」を付けることがあります。
丁寧語にする「お」「ご」は、基本的にさまざまな語に付けることができます。
しかし、次の例のように、「お」「ご」を付けるのになじまない語もあります。
お鳥 お猫 お電車 お麦 (✕)
おテレビ おコーヒー おケーキ (✕)
お悲しい お運転する (✕)
したがって、「お」「ご」をむやみにいろいろな語に付けることはさけて、付けることが慣習となっているものだけに使うようにしましょう。
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次の各文の敬語の使い方が正しければ○で、まちがっていれば✕で答えよ。
(1) 先生がそのように申しました。
(2) 先生にご覧になっていただく。
(3) 先生は、通勤にバスをご利用される。
(4) すべりやすいので、足もとにご注意してください。
(5) くわしいことは、担当の者に伺ってください。
(6) 母があなたにお会いしたいとおっしゃっていました。
(7) 母には私から申し上げます。
(8) お母さまは、ご在宅でいらっしゃいますか。
【考え方】
目上の人や話し相手の動作には尊敬語を使い、自分や身内の動作には謙譲語を使います。
(1) 「申す」は「言う」の謙譲語なので、目上の人(先生)の動作に使うことはできません。「言う」の尊敬語「おっしゃる」を使うのが正しい敬語です。
(2) 「ご覧になる」は「見る」の尊敬語で、「いただく」は「もらう」の謙譲語です。
「見る」という動作をするのは「先生」ですが、「もらう」という動作をするのは話し手です。したがって、「ご覧になっていただく」は正しい敬語です。
(3) 「ご利用される」は、謙譲語の形「お(ご)~する」に尊敬の助動詞「れる」が付いた形です。
目上の人(先生)に対して謙譲語を使っているので、「お(ご)~される」という形は不適切な表現です。
この場合は、「利用される」「ご利用になる」とするのが正しい敬語です。
(4) 「ご注意してください」は、謙譲語の形「お(ご)~する」と尊敬語の動詞「くださる」が組み合わさった表現です。
話の聞き手(読み手)に対して謙譲語を使っているので、「お(ご)~してください」という形は不適切な表現です。
この場合は、「注意してください」「ご注意ください」とするのが正しい敬語です。
(5) 「伺ってください」は、謙譲語の動詞「伺う」と尊敬語の動詞「くださる」が組み合わさった表現です。
話の聞き手(読み手)に対して謙譲語を使っているので、このような形は不適切な表現です。
この場合は、「お尋ねください」「お聞きください」とするのが正しい敬語です。
(6) 「おっしゃる」は、「言う」の尊敬語です。したがって、身内(母)の「言う」という動作に使うことはできません。
この場合は、「言う」の謙譲語の動詞「申す」を使って、「母が……申していました」とします。
(7) 「申し上げる」は、「言う」の謙譲語で、動作の向かう先に対して敬意を表す働きをします。したがって、話し手が身内(母)に対してする動作について使うことはできません。
この場合は、動作の向かう先に対する敬意を表さない謙譲語である「申す」を使うのが、正しい敬語です。
(8) 「ご在宅」や「いらっしゃる」はここでは相手側(「お母さま」)の動作を表しているので、正しい敬語です。
【答】
(1) ✕
(2) ○
(3) ✕
(4) ✕
(5) ✕
(6) ✕
(7) ✕
(8) ○
*
次の各文の下線部の語を接頭語の「お」または「ご」が付く形の敬語に改めなさい。
(1) あなたのご両親は、さぞ喜ぶでしょう。
(2) 弟さんは、今年卒業するのですか。
(3) 明日、私がそちらへ行きます。
【考え方】
接頭語の「お」は和語に付き、「ご」は漢語に付くのが原則です。
(1) この文の「喜ぶ」は聞き手の「ご両親」の動作なので、尊敬語の形「お(ご)~になる」や「お(ご)~なさる」に書きあらためます。
「喜ぶ」は和語なので、それに付く接頭語は「お」です。したがって、尊敬語にすると、「お喜びになる」、または、「お喜びなさる」という形になります。
(2) この文の「卒業する」は聞き手の「弟さん」の動作なので、尊敬語の形に書きあらためます。
「卒業」は漢語なので、それに付く接頭語は「ご」です。したがって、尊敬語にすると、「ご卒業になる」、または、「ご卒業なさる」という形になります。
(3) この文の「行き(行く)」は話し手(「私」)の動作なので、謙譲語の形にします。
「行く」の謙譲語は「伺う」ですが、さらに接頭語を使って、「お(ご)~する」や「お(ご)~いたす」という形にします。
「伺う」は和語なので、それに付く接頭語は「お」です。
したがって、「お伺いする」、または、「お伺いいたす」という形になります。
なお、これらは二重敬語になりますが、慣習として定着しているものなのでまちがいにはなりません。
【答】
(1) お喜びになる(お喜びなさる)
(2) ご卒業になる(ご卒業なさる)
(3) お伺いし(お伺いいたし)
**
次の各文は、それぞれ敬語の使い方が適切ではない。各文の敬語が適切でないことの説明として適当なものをあとから選び、記号で答えなさい。
(1) お客さまのお持ちになっておりますお荷物をこちらでお預かりさせていただきます。
(2) このソファーは、ふわふわしていらっしゃいますね。
(3) 先生は、さきほどお帰りになられました。
(4) 誕生日のおケーキとおプレゼントを準備しました。
ア 二重敬語が使われている。
イ 敬語が何度も使われていて、くどい印象を与える。
ウ 人間以外のものに対して敬語が使われている。
エ 「お」の付けかたが不自然である。
【考え方】
敬語の使い方が行きすぎているために不適切であるとされるケースについて考える問題です。
(1) 一つの文のなかに敬語が何度も使われているので、文全体が冗長な印象をあたえています。
前半部分の敬語表現はなるべく省略するようにして、最後を敬語表現でまとめましょう。
たとえば、「お客さまがお持ちの荷物をこちらでお預かりいたします。」のようにより簡潔な表現にすると、すっきりとした文になります。
(2) 敬語は人間に対して使うものですから、「ソファー」のような物に対して使うことはまちがいになります。
「(ふわふわして)いらっしゃる」ではなく、「(ふわふわして)いる」が正しい表現です。
(3) 「お帰りになられる」は、「帰る」の尊敬語の形「お帰りになる」に尊敬の助動詞「れる」を付け加えたもので、二重敬語です。
二重敬語は、一般に不適切な表現であるとされています。
(4) 「ケーキ」や「プレゼント」という語には、接頭語の「お」を付ける習慣はありません。
したがって、「おケーキ」や「おプレゼント」という言葉は不自然な感じをあたえます。
【答】
(1) イ
(2) ウ
(3) ア
(4) エ